大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)2272号 判決 1998年4月15日

愛知県海部郡十四山村鮫ケ地三丁目七三番地

原告

株式会社東洋工機

右代表者代表取締役

長倉正受

右訴訟代理人弁護士

山上和則

同右

西山宏昭

右補佐人弁理士

鈴木由充

神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地

被告

株式会社アマダ

右代表者代表取締役

上田信之

右訴訟代理人弁護士

高村一木

同右

野上邦五郎

同右

杉本進介

同右

冨永博之

右補佐人弁理士

三好秀和

同右

岩崎幸邦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録記載の曲げ加工装置を製造、譲渡してはならない。

二  被告は、その占有する別紙物件目録記載の曲げ加工装置を廃棄せよ。

三  被告は、別紙物件目録記載の曲げ加工装置に関するパンフレット、その他の広告・宣伝に、「板厚検知機能付」という文言を使用してはならない。

四  被告は、原告に対し、金九六九万二〇八三円及びこれに対する平成七年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

(事案の概要)

本件は、プレスブレーキのような曲げ加工装置に関し特許権を有する原告が、被告に対し、被告の製造・販売する曲げ加工装置が自己の特許権を侵害するとして、その製造等の差止め及び製造物の廃棄等を求めるとともに、損害賠償を求めた事案である。

なお、プレスブレーキのような曲げ加工装置とは、下型上にセットされた被加工板材を、上型と下型との間で加圧し下型のV字溝内に押し込んで、所望の角度だけ折り曲げるという機械である。そして、本件で問題となった原告の特許権は、被加工板材の板厚がばらついても適正な曲げ角度を得ることを目的としている。

(争いのない事実等)

一  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。

1 出願日 昭和六一年一二月一九日(特願昭六一一三〇五〇一一号)

2 発明の名称 曲げ加工装置

3 出願公告日 平成三年八月一三日(特公平三一五三〇四七号)

4 登録日 平成六年一〇月七日(特許第一八七七二三三号)

二  本件特許の特許請求の範囲第一項には以下の記載がある。

溝上に支持された被加工板材に対し往復動機構により型を往復動作させると共に、この移動時に型の加圧力を被加工板材に作用させて、被加工板材を前記溝内に押し込み、所望の角度折り曲げる曲げ加工装置であって、前記型の被加工板材に対する加圧力を検出する加圧力検出手段と、前記型の往復動作位置を検出する位置検出手段と、前記型の被加工板材への当接を判別するための前記加圧力のしきい値と、所定の曲げ角度を得るための前記溝に対する型の押込み量とを記憶させる記憶手段と、前記加圧力検出手段と前記位置検出手段とから型の被加工板材に対する加圧力と型の往復動作位置とを取り込み、加圧力が前記しきい値に達するときの型の往復動作位置を求め、その位置に前記押込み量を加算して型の動作終端位置を算出する演算手段と、前記往復動機構の往復動作を制御して型が前記動作終端位置に到達したとき型の移動を停止させる動作制御手段とを具備して成る曲げ加工装置。

三  特許請求の範囲の分説

A 溝上に支持された被加工板材に対し往復動機構により型を往復動作させると共に、この移動時に型の加圧力を被加工板材に作用させて、被加工板材を前記溝内に押し込み、所望の角度折り曲げる曲げ加工装置であって、

B 前記型の被加工板材に対する加圧力を検出する加圧力検出手段と、

C 前記型の往復動作位置を検出する位置検出手段と、

D 前記型の被加工板材への当接を判別するための前記加圧力のしきい値と、所定の曲げ角度を得るための前記溝に対する型の押込み量とを記憶させる記憶手段と、

E 前記加圧力検出手段と前記位置検出手段とから型の被加工板材に対する加圧力と型の往復動作位置とを取り込み、加圧力が前記しきい値に達するときの型の往復動作位置を求め、その位置に前記押込み量を加算して型の動作終端位置を算出する演算手段と、

F 前記往復動機構の往復動作を制御して型が前記動作終端位置に到達したとき型の移動を停止させる動作制御手段とを具備して成る曲げ加工装置。

四  被告は、別紙物件目録記載の曲げ加工装置(以下「イ号物件」という。)を製造・販売している。

五  イ号物件は、本件特許発明の構成要件A及びCの構成を具備している。

(争点)

本件の争点は、イ号物件が、本件特許発明の構成要件B、Eの「加圧力検出手段」を備え、同D、Eの「加圧力のしきい値」を記憶させているか否かという点である。

(争点に対する当事者の主張)

(原告の主張)

一  加圧力検出手段について

1 構成要件Bにおける「加圧力を検出する」とは、技術常識からして、加圧力と関連付けることのできる所定の物理量を検出して加圧力に換算するということを意味する。ただし、検出した物理量に基づいて加圧力が特定されなければならない。

また、型の被加工板材への当接を検知するという目的から判断して、型が被加工板材に当接したと判別するまでの加圧力を検出できれば足りる。

さらに、本件発明では、型の被加工板材に対する当接を判別するときに、型の被加工板材に対する加圧力が特定の値であることが必要であって、そのときの検出値を、例えばkgやtonというような単位に換算して記憶させたり、あるいは表示させたりすることを必要としない。

2 なお、被告は、本件特許の出願当時公知であった米国特許第四五五〇五八六号(以下「公知例」という。)における検出器と本件発明とを比較して、本件発明は、被加工板材の板厚を加圧力の急増から求めている点に特徴があると主張している。

しかし、この公知例における検出器において、被加工板材に上型が当接したと判別しても、その時点における被加工板材に対する加圧力は特定されないから、米国特許の公知例には本件発明の加圧力検出手段に相当する構成はなく、板厚検知を行った時点での型の被加工板材に対する加圧力も一定していないから、本件発明の加圧力のしきい値も存在しない。

よって、米国特許の公知例は、本件特許の技術的範囲に何ら影響を与えるものではない。

二  「加圧力のしきい値」について

本件発明における「加圧力のしきい値」とは、型の被加工板材に対する当接を判別するときに、型の被加工板材に対する加圧力を特定するためのものである。もつとも、型が被加工板材に当接するといっても、弱い当接もあれば、強い当接もあるが、要は、「加圧力のしきい値」とは、型の被加工板材に対する同じ強さの当接状態を得ることができる値をいうものである。

三  イ号物件との対比

1 エラーカウンタについて

(一) イ号物件において、バックラッシュにより上型が一時停止してエラーカウンタの出力値が増加するのは、被加工板材に上型の加圧力が作用したからである。したがって、エラーカウンタの出力値は被加工板材に対する加圧力に関連する物理量である。

(二) イ号物件のエラーカウンタの出力値は、上型が被加工板材に当接したと判別するまでの間、ゼロからNβまで変化する。この場合、エラーカウンタの出力値がN1以下であれば、上型の被加工板材に対する加圧力はゼロであり、N1を越えてNβ以下であれば、加圧力は上型を含めたラム荷重相当分である、と特定できる。

(三) また、イ号物件では、エラーカウンタの出力値によって、サーボモータへ供給する電流値(トルク)ひいては加圧力を算出するのであるから、エラーカウンタにより構成されるイ号物件の当接検知手段は、本件発明の実施例における加圧力検出手段と同等の能力を持つ。

2 「加圧力のしきい値」について

イ号物件は、本件発明の加圧力検出手段に相当する構成を持ち、かつその加圧力検出手段の検出値が所定の値Nβになることをもって、上型の被加工板材への当接を判別している。しかも、上型の被加工板材への当接を判別したとき、上型の被加工板材に対する加圧力は、上型を含めたラム荷重相当分という一定値となるから、イ号物件には、本件発明でいう「加圧力のしきい値」が存在している。

(被告の主張)

一  本件発明の技術的範囲について

1 本件特許の特許請求の範囲の記載からすれば、本件発明の「加圧力検出手段」とは、「往復動機構で型を移動させることにより、被加工板材を折り曲げる力」である「加圧力」を検出する手段である。また、右加圧力検出手段は、その検出値から曲げ加工が行われている間の被加工板材に対する加圧力を検出できるものでなければならない。

そして、「加圧力のしきい値」とは、右加圧力検出手段をもって検出した前記「加圧力」の所定値をいうものと解されなければならない。

2 公知例によれば、被加工板材の板厚を、曲げ加工工程中に型が被加工板材に当接して加圧力によって被加工板材が折り曲げられる際に生じる何らかの変化量から求めるという考え方は、本件発明で初めて考え出されたことではない。

よって、本件発明は被加工板材の板厚を加圧力の急増から求めている点に特徴があるものといわなければならないのである。

二  イ号物件との対比

1 イ号物件の当接検知の基本的考え方

イ号物件は、型が被加工板材に当接したときに、バックラッシュのためにモータが空転し、ラムが一時停止するという現象に着目し、ラムの一時停止を検出することにより型と被加工板材との当接を判別して被加工板材の板厚を求めるものである。

したがって、イ号物件においては、ラムの位置を正確に検出する位置検出手段としてリニアセンサが必須の構成要素であり、型の被加工板材に対する加圧力を検出する必要は全くない。現にイ号物件にはモータのトルク検出器が備えられているが、このトルク検出器は当接検知には全く用いられていないのである。

2 エラーカウンタは加圧力検出手段ではないこと

(一) エラーカウンタの出力値は、ラムの位置偏差(ラムの移動距離の指令値と実際の移動距離との差)を示すだけで上型の被加工板材に対する加圧力を示すものではない。このエラーカウンタの出力値からは、「往復動機構で型を移動させることにより、被加工板材を折り曲げる力」である「加圧力」を検出できないのであり、イ号物件のエラーカウンタは本件発明の「加圧力検出手段」とは言えない。

また、イ号物件では、曲げ加工が行われている間、エラーカウンタの出力値が一定であっても、時点により加圧力が異なり、しかも変化する場合や、逆にエラーカウンタの出力値が変化しても加圧力は一定の場合があり、エラーカウンタの出力値と被加工板材に対する加圧力との間に対応関係がみられないので、エラーカウンタの出力値から被加工板材に対する加圧力を一つの値として確定することはできない。

(二) 原告は、イ号物件ではバックラッシュの際には、ラムの自重がエラーカウンタにより検出されていると主張している。

しかし、イ号物件の当接検知手段であるエラーカウンタは、ラムが一時停止する時点を求めるだけであり、エラーカウンタの出力値からラムの自重の値が直接求められるわけではない。ラムの自重が違うプレスブレーキにおいても、バックラッシュ時のエラーカウンタの出力値は変わらないので、プレスブレーキの機種ごとに種々に異なるラムの重さをエラーカウンタからの出力値から得られるはずはない。

また、イ号物件にはラムの自重の値は記憶されていないのでエラーカウンタからラムが一時停止した時点を検知したとしてもその際の被加工板材に加えられるラムの自重の値を表示することはできないのである。

(三) 原告は「イ号物件のサーボモータの電流値「トルク」はエラーカウンタの出力値に基づいて決定されており、本件発明の実施例もサーボモータの電流を上型の被加工板材の加圧力として捉えているから、エラーカウンタの出力値も上型の被加工板材の加圧力を表すものである。」という。

しかしイ号物件では、エラーカウンタの出力値はサーボモータの回転指令値として速度制御ループに入力され、サーボモータのエンコーダの出力値との差に基づいてサーボモータの回転数の制御がなされており、エラーカウンタの出力値に基づいて電流値が決定されているわけではない。したがって、エラーカウンタの出力値は、サーボモータの電流値とも、上型から被加工板材に作用する加圧力とも何の関係もないものである。

(四) 以上のようにエラーカウンタの出力値から被加工板材に対する加圧力が算出されない以上、エラーカウンタとリニアセンサ及びマイクロコンピユータから構成される当接検知手段が本件発明の加圧力検出手段ということはできないはずである。

3 イ号物件ではエラーカウンタの出力値が所定の値Nβを超えるときに上型が被加工板材に当接したと判別するものであり、Nβはエラーカウンタの出力値のしきい値である。そしてエラーカウンタはラムの指令位置と実際の位置との距離の差を表すものであり、上型の被加工板材に対する加圧力を表すものではなく、また、エラーカウンタの出力値から加圧力は算出できないものであるから、エラーカウンタのしきい値は「加圧力のしきい値」ではない。

4 なお、イ号物件においては、被加工板材が上型で押し込まれて加圧力が急増する前に当接が検知でき、またエラーカウンタの出力値の方がトルク計の出力値に比べて変動が少ないため、本件発明の方法に比べて当接位置を早く、即ち被加工板材が曲げられる前の板上面の位置により近い位置で検知でき、板厚がより正確に検出できる。

第三  当裁判所の判断

一1  特許請求の範囲によれば、本件発明の「加圧力検出手段」は、「溝上に支持された被加工板材に対し往復動機構により型を往復動作させ」ることにより生じる「型の被加工板材に対する加圧力」を検出するものであり、それによって検出された「加圧力」が「しきい値」に達したときには、型が被加工板材に当接したものと判別することになる。

「加圧力検出手段」は、それを文字どおり解すると、「加圧力の強さを知る手段」ということになる。もっとも、ここにいう加圧力とは、特許請求の範囲の記載からして、実際に生じた加圧力を意味している。また、本件特許発明の実施例においては、往復動機構の駆動源であるサーボモータのトルクを検出するトルク検出器が「加圧力検出手段」として用いられている。これらのことからすると、「加圧力検出手段」は、加圧力そのものを検出する手段に限定されるものではなく、他の物理量を検出するものであってもよいが、その物理量は、加圧力と一定の関係にあり、その物理量を測定すれば、それから加圧力の強さが明らかになるというものでなければならない。

また、本件発明は、「加圧力検出手段」によって検出された加圧力の値により「当接」を判別するものであるから、「加圧力検出手段」は、それによって検出した加圧力の強さによって「当接」を判別するようなものでなければならない。

さらに、本件発明における「加圧力のしきい値」は、加圧力についての特定の値であって、それによって、「当接」を判別するようなものでなければならない。

2  なお、証拠(乙二)によれば、米国特許の公知例は、被加工板材の板厚が異なっても適正な曲げ角度が得られるようにするため、型が被加工板材に当接することを、被加工板材の曲げ変形という現象で捉えてこれを検知するというものであり、被加工板材の下部表面が下型(ダイ)の上部表面から上昇する瞬間を検知することにより、「当接」を判別しようというものであることが認められる。よって、米国特許の公知例は、型の被加工板材に対する加圧力によって被加工板材に変形が生じる点に着目しているので、加圧力と関係する変形量に着目した発明であるということができる。

しかし、被加工板材の下部表面が下型(ダイ)の上部表面から上昇する瞬間における加圧力は、被加工板材の板の厚さによって異なることは明らかであり、しかも、板の厚さを測定するために「当接」を判別するのであるから、板の厚さを予め設定しておくというようなことも考えられない。したがって、米国特許の公知例における「当接」の判別は、加圧力とは無関係にされているものであり、右公知例は、「加圧力検出手段」を有していないばかりか、「加圧力のしきい値」により型の被加工板材に対する当接を判別するものでもない。

二1  「争いのない事実等」によれば、イ号物件においては、エラーカウンタの出力値が上昇して所定の値Nβに達したことを検知して、上型の被加工板材への当接を判別している。そして、エラーカウンタの出力値は、ラムの位置を指令する指令値パルスとラムの実際の位置を表す出力パルスとの差であり、エラーカウンタの出力値が上昇して所定の値Nβに達するのは、上型が被加工板材に当接すると、サーボモータがエラーカウンタの出力値どおりの回転をしてもボールネジにバックラッシュがあるためにラムが停止し、リニアセンサの出力パルスが発生しないためである。

以上のことからすると、イ号物件においては、エラーカウンタの出力値を「当接」の判別に用いているところ、その当接を判別する時点におけるエラーカウンタの出力値Nβが、バックラッシュの存在によるラムの停止を示しているが故に「当接」したものと判別しているのであって、「加圧力の値」によって当接を判別しているものではない。

したがって、エラーカウンタの出力値は、それによって検出した加圧力の強さによって「当接」を判別するものでないから、エラーカウンタの出力値を検出する手段は、「加圧力検出手段」ではない。また、「当接」を「加圧力の値」によって判別していないから、「当接を判別するための加圧力のしきい値」を有するという構成も備えていない。

2  なお、原告は、エラーカウンタの出力値は被加工板材に対する加圧力に関連する物理量であると主張している。しかし、加圧力に関連する物理量を検出する手段であるからといって、直ちに「加圧力検出手段」ということができないことは、既に述べたところから明らかである。

3  また、原告は、エラーカウンタの出力値がN1以下であれば、上型の被加工板材に対する加圧力はゼロであり、N1を超えてNβ以下であれば、加圧力は、上型を含めたラム荷重相当分である、と加圧力を特定できるから、エラーカウンタは「加圧力検出手段」であり、右のとおり当接判別時Nβの加圧力を特定できるから、「加圧力のしきい値」が存在していると主張している。

確かに、エラーカウンタの出力値がNβであれば、その時の加圧力は上型を含めたラム荷重相当分であるといえる。

しかし、このことは、イ号物件においては、その構造上、エラーカウンタの出力値と加圧力との関係を原告の主張のように関連付けることができるというにすぎない。すなわち、既に判示したように、イ号物件においては、エラーカウンタの出力値の変化によって、バックラッシュの存在によるラムの停止を感知し、当接を判別しているのであって、その過程に加圧力を介在させているものではなく、またその必要もないのである。したがって、エラーカウンタの出力値を検出する手段は、型の被加工板材に対する当接を判別するために加圧力を検出していないから、「加圧力検出手段」であるということはできないし、「加圧力のしきい値」も存在していない。

4  原告は、エラーカウンタの出力値によって、サーボモータへ供給する電流値(トルク)ひいては加圧力を算出するのであるから、エラーカウンタにより構成されるイ号物件の当接検知手段は、本件発明の実施例における加圧力検出手段と同等の能力を持つと主張している。

しかし、原告の右主張は、エラーカウンタの出力値によって、これから発生する加圧力の原因となる電流指令値を計算するという主張にすぎず、そのことによって、エラーカウンタにより構成されるイ号物件の当接検知手段が、実際に生じた加圧力の強さを知る手段である加圧力検出手段と同等の能力を持つということはできない。

三  以上より、イ号物件は、本件特許の技術的範囲に属さず、本件特許を侵害しないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 安永武央 裁判官森義之は、転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 野田武明)

物件目録

1 イ号物件の構成

(一) 曲げ加工装置は、機械本体100と操作ボックス101、コントロールボックス98、サーボアンプ99とから成る(別紙第2図)。機械本体100の前面には、テーブル102と、このテーブル102に対して昇降動作するラム103とが上下に対向して設けてある(別紙第1図)。

(二) テーブル102上には下型104が取り付けられ、ラム103の下端縁にはホルダ105を介して上型106が取り付けられる(別紙第1図)。下型104の上面にはV字状の溝107が設けられている(別紙第3図)。

(三) ラム103は、交流サーボモータ109、減速機110、ボールネジ機構111より成る往復動機構108に連繋されており、サーボモータ109にはその回転数に比例してパルスを出力するエンコーダ122が設けられている(別紙第1図)。

減速機110及びボールネジ機構111にはギヤやネジの間に遊び(バックラッシュ)がある(このようにバックラッシュは減速機とボールネジ機構の双方に存在するのであるが、簡便のために以下「ボールネジのバックラッシュ」という。)(別紙第4図)。

(四) 下型104の溝107上に支持された被加工板材Wに対して、往復動機構108は上型106をラム103と一体に往復動させる。下降時に上型106の加圧力が被加工板材Wに作用し、被加工板材Wは下型104の溝107に押し込まれ、所望の角度αだけ折り曲げられる(別紙第3図)。

(五) リニアセンサ119とエラーカウンタ121を含むマイクロコンピュータ117から構成される上型106と被加工板材Wとの当接を検知する当接検知手段を有する(別紙第5図)。

エラーカウンタ121には、CPU114から「ラムの位置を指令する指令値パルス」が送られる一方、リニアセンサ119から「ラムの実際の位置を表す出力パルス」が送られ、エラーカウンタ121で「指令値パルスの累算値」と「リニアセンサの出カパルスの累算値」の差が求められ、出力される(別紙第5図)。

(六) ラム103の往復動作位置を検出する、リニアセンサ119とマイクロコンピュータ117から成る位置検出手段を有する。

(七) 前記当接検知手段により上型の被加工板材への当接を検知するためのエラーカウンタの所定の値Nβと、所定の曲げ角度を得るための下型104に対する上型106の押込み量とを記憶させる記憶手段を有する。

(八) 前記当接検知手段と前記位置検出手段とからエラーカウンタ121の出力値とラム103の往復動作位置とを取り込み、エラーカウンタ121の出力値が前記Nβに達するときの上型106の往復動作位置を求め、その位置に前記押込み量を加算して上型の動作終端位置を算出するマイクロコンピュータ117を有する。

(九) 被加工板材Wが上型106からの加圧力により折り曲げられる際にもラム103が所定の速度で移動するように、エラーカウンタ121の出力及びエンコーダ122の出力を取り込み往復動機構108を制御するサーボアンプ99とマイクロコンピユータ117を含むコントロールボックス98からなる動作制御手段を有する(別紙第5図)。

(一〇) 上型106が前記動作終端位置に到達したときにラム103の移動を停止させる前記動作制御手段を有する。

2 イ号物件におけるラムの往復動機構の制御システムについて(別紙第5図)

(一) 使用する材料や金型及び曲げ条件等をコントロールボックスの表示部113の表示にしたがって操作部112を操作して入力すると、所望の曲げ角度を得るために必要なラムの移動距離及び移動速度が設定される。ラムは待機位置から被加工板材の上方近傍までは高速度で下降して一旦停止し、それ以降曲げ加工終点位置までは低速度で下降する。

被加工板材の上方近傍から終点位置までラムが一定の遅い速度で下降する場合のラムの往復動機構の制御システムは、以下のとおりである。

(二) コントロールボックス内及びサーボアンプ内の各制御装置は最終的にはサーボモータ109の電流値を制御して実際のラムの移動距離と移動速度が設定値通りになるように構成されており、コントロールボックス98内には<1>ラムの移動距離の指令値と実際の移動距離との差をなくする「位置制御ループ」が組み込まれており、サーボアンプ99内には<2>ラムの移動速度の指令値と実際の速度との差をなくする「速度制御ループ」及び<3>サーボモータへ供給する電流の指令値と実際の電流値の差をなくする「電流制御ループ」が組み込まれている。

<1> 位置制御ループについて

ラムの位置を指令する指令値パルス(そのパルスの累算値がラムの移動距離の指令値を表しており、単位時間ごとのパルス数がラムの移動速度を表している。)がCPUからエラーカウンタ121送信される。一方、リニアセンサ119からその出力パルス(そのパルスの累算値がラムの実際の移動距離を表している。)がエラーカウンタ121に送信される。

エラーカウンタ121においては、指令値パルスの累算値とリニアセンサの出カパルスの累算値の差が求められ、最終的にはこの値がゼロになったときにラムは設定された目標移動距離に到達して停止するように制御される。

前記指令パルスの累算値とリニアセンサの出力パルスの累算値の差はエラーカウンタから出力され、比例ゲイン(P1)、ディジタルアナログ変換器(D/A変換器)を経てアナログ信号がサーボアンプ内の<2>速度制御ループの回路に速度指令として送られる。

<2> 速度制御ループについて

速度制御ループにおいては、「位置制御ループからの速度指令値」と「サーボモータの回転速度を表すエンコーダ122からの信号(実速度)」との差(速度誤差)が比例ゲイン(P2)及び積分ゲイン(積分Ⅰ)を経て電流指令値として次の<3>電流制御ループの回路へ送信される。

<3> 電流制御ループについて

電流制御ループでは「速度制御ループからの電流指令値」と「実際のサーボモータの電流値」との差が求められ比例ゲイン(P3)を経て、サーボモータの電流が指令値通りになるような制御がなされる。

3 上型と被加工板材の当接検知の方法(別紙第6図)

(一) ラムが被加工板材の上方近傍において下降を開始しようとするときには、CPUから指令値パルスがエラーカウンタに送信されるが、すぐにラムが下降を始めるわけではないのでエラーカウンタには指令値パルスのみが入力し、リニアセンサの出力パルスは入力されない。そこでラムが下降を開始し始める際にはエラーカウンタの出力値はゼロからある値まで増加する。しかしラムが定常速度に達すると、単位時間当たりに発生する指令値パルス数とリニアセンサの出力パルス数は等しくなるので、エラーカウンタの出力値は変化せず一定値となる。

(二) ところが上型が被加工板材に当接したときは、サーボモータがエラーカウンタの出力値通りの回転をしてもボールネジにバツクラツシユがあるためにラムは停止する。そのためリニアセンサの出力パルスは発生せず、エラーカウンタの値は増加を開始し、バックラッシュによるボールネジの空転が終了して、再びリニアセンサの出カパルスが発生するまでの間、増加を続ける。

そこでこのエラーカウンタの出力値が所定の値Nβに達したことを検知して、上型の被加工板材への当接を判定する。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例